Don't let me go, Prince!



 朝目が覚めると弥生さんはいつもと変わらない無表情で朝食を食べて仕事へと行ってしまった。

 私は昼はフィットネスバイクで運動をした後、少しだけ従業員の女性が話し相手をしてくれたのでそんなに退屈はしなかった。
 19時5分前に部屋の鍵を開ける音がしたので、私はドアの前に向かう。前よりも弥生さんが帰ってくる時間が待ち遠しくなっていた事に気づく。

「ただいま帰りました。」

「おかえりなさい、弥生さん。」

 彼がここに戻ってきてくれたことで、ついつい頬が緩んでしまうのを止められない。彼から鞄を受け取る時に、自然に互いの指先も触れるようになった。
……私の好きな冷たい指。

 その後は二人で静かに食事を取って、交代でお風呂に入る。弥生さんはもういいと言ったけれど、私はまだ彼から聞きたいことがあった。

「勝負を続けてもいい?最後に一つだけ教えて欲しいの。」

「もう勝負はしなくていいですよ。私は昨日渚に話すと約束しました。渚は何が知りたいんですか?」

 そう?弥生さんは本当にそう言える?昨日の話を終えた時、何となくわざとなんじゃないかって思ってしまった。話したくない事だけ無意識に誤魔化してることを貴方は気付いてる?
 言いたいけれど言えない事は私にもあるから、弥生さんばかりを責めることは出来ない。

「私が逃げた時……正直、弥生さんは追いかけては来ないと思っていたわ。あの時弥生さんは何を考えた?どう思って私を捕まえに来たの?」

 あの時の私は弥生さんに追いかけて来て欲しかったけれど、どこかでそれを諦めてもいた。そこまで弥生さんに必要とされている自信が無かったから。

「あの日もしかしたら渚は居なくなるのではないかと、私はどこかで気付いていました。分かっていましたが、家政婦から話を聞いた時はショックでした。」

< 47 / 198 >

この作品をシェア

pagetop