Don't let me go, Prince!
そう言って脚に力を入れて立ち上がろうとするけれど上手くいかない。足がフルフルと震えるけれど、私は生まれたての子馬じゃないのよ?
そうこうしていると後ろから身体を寄せられて、弥生さんに抱き上げられてしまう。抱き上げられた拍子に、昨日の行為の後に着せられたであろう弥生さんのシャツが捲れる。そこから覗く太腿に幾つもの痕を見つけて、昨日の行為の濃厚さを思い出す。
見れない、今は弥生さんの顔を普通には見れないわ。そう思って俯いていると彼は私の項にキスをしてきた。
「きゃっ!」
つい小さな悲鳴をあげてしまい、顔を上げてしまう。
「何故私に顔を見せないのです?ああ……渚はそんな表情を隠していたのですか。その表情も新鮮でいいですね。」
どんな表情をしているかなんて自分では分からない。無表情で勝手に、私の顔に満足している弥生さんはどうかしてるわ!
いままでと変わらないようで、彼の私に対する扱いが確実に変わってきている気がする。
「このままバスルームまで運びます。私が渚の身体も洗いましょうか?」
「いい、いらないです!弥生さんはゆっくりと紅茶でも……弥生さん、今日はお仕事は?」
ふと思い出して聞いてみた。朝日の差し込み具合からして、いつもはもう弥生さんは職場についている時間なのではないのかしら?
それによく見れば、今日は弥生さんがスーツ以外の服を着ている。自分に事で頭がいっぱいで今まで気付かなかったわ。
「今日と明日は休みを取っていました。たまにはゆっくり休んでも罰は当たらないでしょう。」
弥生さんがゆっくり?……貴方はゆっくり何をするの?
私は弥生さんが普段何をしているのかを知らなかった。
出会った頃に聞いた彼の趣味は……医療に関する本を読む事だと聞いたような気はするのだけど。