Don't let me go, Prince!
私が悩んでいる間に弥生さんはバスルームへと移動して、私を椅子に座らせてくれた。そのまま当然のようにシャツのボタンを外そうとする弥生さんに焦ってしまう。
「待って、待って?着替えは自分で出来るから、弥生さんは部屋に戻ってて?」
私に伸びてくる弥生さんの手を掴んで戻して、いったん彼をこの場所から追い出さなくては。
「しかし身体が辛いのでしょう?無理をせず私を頼りなさい。」
とっても優しい言葉をありがとう、でも今は本当にいいの。私を心配してくれているのは分かるしとても嬉しいけれど……こうなったのは弥生さんが手加減をしてくれなかったからなのではないかしら?
取り合えず今は一人で、ゆっくりとお風呂に入りたい。身体を温めてこれから先の事、弥生さんと私の関係の在り方について考えたかった。
「大丈夫よ、貴方が思うほど私は弱くはないのよ?」
彼を完全に追い出すと、私は彼のシャツのボタンを外す。私が自分で着た覚えはないから、弥生さんが着せてくれたんだろうなあ。ああ……恥ずかしい。
シャツに顔を埋めても、何も無かった事にはならない。私は諦めてフラフラとバスルームへ入って行った。
シャワーを浴びて髪を丁寧に洗う。私は今弥生さんと同じシャンプーを使ってる。昨日弥生さんから香ってきたのも同じもの。
……少しずつ近くなっていく距離が、私の心をムズムズさせる。
今の状況を弥生さんはどう思ってるのかしらね?身体を洗って湯船に浸かると、花のような香りの入浴剤が入れてあった。
こんな風に扱われると、何だかお姫様の様に大事にされている気分になってしまうわね。
パシャパシャとお湯を手で跳ねさせて、自分の考えは子供っぽいなと笑ってしまう。
そう言えば「いつか王子様が迎えに来る」そんな子供っぽい発言を数年前に誰かに話したような気がするわね。