Don't let me go, Prince!
「私にはこれが当たり前の事ですから。子供時代そうでしたし、これから先も……きっと」
どうして?どうして最初から何かを欲しがることを諦めちゃうの?そうか、だから私を欲しがった時も最初から逃げ道を与えてきたのだわ。
彼の問題はきっと私がまだ知らない彼の過去にあるはず。だからと言って今ここでそれを無理矢理聞き出す気にはなれない。
せっかくの穏やかな時間が台無しになってしまうし、きっと私たちはそこまで信頼関係が築けてはいない。
「誰かに甘えてみようとか思ったことは無いの?」
少なくとも私は甘えてみたいし甘えられてみたいわ。今、私の目の前にいる弥生さんという男性に。
「……つきたくないからです。」
弥生さんの声はとても小さくて、よく聞こえない。彼は自分の感情を話す事を酷く怯えているようで……
「え?ごめんなさい。もう一度言って?」
私は弥生さんに近付いて彼の両手に自分の手を添える。きっと、彼は今少しだけ私を彼の中に入れてくれようとしているのではないかしら?
「もし誰かに何かを求めてしまって、拒絶されショックを受けたりなどしたくないんです。」
……弥生さんの過去の何かは、今の彼に何かを欲しがることすら許さない程根深い何かなのだろうか?
それが辛いという事にさえ気づいて無さそうな彼に、私は何をしてあげられるだろう?
「弥生さん、ちょっと頭をこっちに寄せてくれる?」
私は立ち上がり、椅子に座ったままの弥生さんの頭をそっと胸の中へ抱き寄せる。自分の胸の谷間に彼の顔を埋めて後頭部に手を回す。
「弥生さんは、私の腰に両腕を回してね?」
彼が腕を回したのを確認して、私はゆっくりと弥生さんの頭を撫でていく。
もう髪を整髪料で整えてしまっていて、ちょっとチクチクするわ。