御曹司にビジネス婚を提案されたけどもしかしてこれは溺愛婚ですか?
「ありがとう。じゃあ、披露宴ではあまり飲みすぎずに、無理はしないでくださいね」

「うん。玲音さんも」

「では楽しみにしています」

玲音が遠ざかる足音がした。

少し前まで家族もいなくなり、男性に裏切られ、仕事さえも失い、途方に暮れていた私が様々な縁でここにいる。

素敵なネックレスを用意すると弘美さんが言っていたが、私はそれを断った。

どんなに煌びやかなネックレスよりも今日は、小さく光るこのダイヤだけが良かった。

弘美さんは私の話を聞き、シンプルなドレスを作ってくれた。
ベールには細かな刺繍があり、その一部はバラと私の母の名前と父の名前になっている。

ゴージャスなものが高いとは限らない。

シンプルなデザインながらも私の体形を良く見せるための工夫がなされ、生地も高級品、刺繍はアーティストに任せた世界で一つだけの特別なもの。

弘美さんの好きが詰まった豪華なカクテルドレスよりもずいぶんと高かった。

弘美さんはアクセサリー代含めたら同じよ、なんて言っていたが、正直私の人生でそんなに多くの0を見る機会がなかったので玲音との結婚が恋愛婚だと信じてやまない弘美さんに申し訳なさで一杯になった。

この暮らしを少しでも長く続けていけるように私は尽力するしか恩返しの方法はない。
< 120 / 129 >

この作品をシェア

pagetop