御曹司にビジネス婚を提案されたけどもしかしてこれは溺愛婚ですか?
「母と約束したんです。いつか一緒に行こうねって」

私の父は私が幼い頃に仕事の事故で亡くなり、それからは母一人で私を育ててくれた。

そんな母はよく人は見かけではないと言っていた。

美人の母と残念ながらかっこいいとは言えない父。

父の記憶はあまりないが、母と私にはよく笑顔を見せてくれていたのを覚えている。

母の話によれば、寡黙だった父は本当に私達を心から愛して慈しんでくれていたそうだ。

父は最後の最後まで王子様のようにかっこいい姿にはならなかったが母の中ではずっと世界一かっこいい王子様だったようだ。

そんな二人の話を聞くのが私は大好きだった。

母の子供とは思えない父そっくりの容姿。いつか私も呪いが解けて母のように綺麗になれるのだろうか。

そんな思いから私は何度もこの街を参考にした映画を観続けていた。

母は私がこの街並みが大好きだと思ったのだろう。

いつか二人で必ずコルマールに行こうと弾むような声で約束してくれた。

母は元々病弱な人で、沢山働くことができないのにも関わらず私の為に無理して頑張って働いてくれた。
いつか二人で一緒に旅行するために、毎日の暮らしを少しでも豊かにするために。

そして私は母との約束を今こうして果たしている。
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