御曹司にビジネス婚を提案されたけどもしかしてこれは溺愛婚ですか?
「いいえ。ここで大丈夫です」

「何階程度までなら大丈夫ですか?」

「そうですね。建物内なら別に何階でもいいのですが、足元まで窓だと少し怖いので窓にべったりとかはできないと思います」

「そうですか。では考え直さなければなりませんね」

しまった。

ドレスや素敵なレストランに浮かれて忘れていたが、これは採用面接の一部かもしれないのだ。
ホテルは高い建物が多い。

高所恐怖症では事務職でさえ採用取り消しを検討するに値するのかもしれない。

「えっと、でも大丈夫です。床さえしっかりした建物内であれば」

彼は私の話も2割程度しか聞いていないようでスマホで何かを打ち込んでいた。

終わったかもしれない。

前菜が運ばれて来ると、その美しさと美味しそうな香りで私のお腹をくすぐり始めた。
正直これが何という料理なのか分からない。日本で言えば魚の叩きペーストやユッケみたいなものだろうか。

一口食べると日本とは違う洋風な味が広がる。

不採用だとしても、こんなチャンスは二度とこない。経験させてくれただけでも感謝しよう。

次々に運ばれてくる料理に舌鼓を打ちながら私は目の前にある幸運を噛み締めていた。

今年の誕生日は一人質素に80円のシュークリームでお祝いするしかないと思っていた。
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