御曹司にビジネス婚を提案されたけどもしかしてこれは溺愛婚ですか?
「あの、では、会社には内緒にしてこのまま採用いただくのは如何でしょうか? 私はそれ以上望みませんので」

この期に及んで私は自分の保身を考えていた。

結果的に体の関係を持って採用してもらうという交渉になり社会的な問題をはらんでしまうが、私は来月分の家賃の支払いで貯金も使い果たしてしまう。

アルバイトの掛け持ちで食いつなぐか、そういう世界に足を踏み入れるか、ただ、30歳の私に需要なんてほぼないだろう。

使えるものがあるならば、なんでも使いたい。それ程窮地に陥っているのだ。

「それはできませんね。採用は取り消しとなりますがご了承ください」

サックっと言い切って彼は部屋の扉を開けて出て行った。

私は膝から崩れ落ち、シーツが体から滑り落ちるのを感じていた。

幸せすぎた誕生日。人生とは幸と不幸の帳尻を合わせるかのように動いている。
いや、私の場合は不幸の度合いが多いのかもしれない。ちょっとした欲が自分を破滅の道に追いやった。

体の中の空気を全て吐き出すような深いため息をつき切ると、私はこれからの事を考えるために猫足のバスタブにお湯をため、泡風呂を作りお風呂に入った。

彼はきっと身の保身のため本当のことは言わず、正当に聞こえるような理屈をつけて私の採用を取り消すのだろう。
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