悪役令嬢ですが推し事に忙しいので溺愛はご遠慮ください!~俺様王子と婚約破棄したいわたしの奮闘記~
心臓がバクバク言って、声なんて出るはずもない。

「このような場で顔を合わせるのは、初めてだな」

エリオットが、悠然と笑みを浮かべて応える。近くに寄ったミッシェルが、微笑み返して淑女としての礼を取った。

「殿下、挨拶が遅れて申し訳ございません」

「いい。ここはプライベートな場だ、無礼講で結構」

言葉が交わされる間も、彼の手はいっこうに緩まない。アメリアは体温が上がるのを感じながら、頭に疑問符がいっぱいだった。

すると、続けて「実は」と話すミッシェルの声が聞こえた。

「アメリアの姿が見えたもので、嬉しくなってしまいまして」

「――ほぉ。なるほど」

呟いたエリオットが、空気を読んでようやくアメリアを解放する。

アメリアは、その腕が解かれた瞬間、パッと彼から離れた。ドレスと違ってあまり乱れることもない衣装なのに、忙しなく整えてミッシェルと面と向かった。

「ミッシェル様、昨日振りです。本日は会いに行けなくてごめんなさい」

「いいんだ。普段からお忙しい殿下と、こうして持てる時間は大切だろう」

にこっとミッシェルが笑いかけてきて、アメリアは感激した。……けど、婚約者同士の仲を深めていっている、という勘違いは訂正したく思った。

「ふうん。俺が『忙しい』ね」

エリオットが、冷ややかに横目を向けてくる。

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