悪役令嬢ですが推し事に忙しいので溺愛はご遠慮ください!~俺様王子と婚約破棄したいわたしの奮闘記~
ミッシェルが、慎ましげに軽く挨拶の礼を取って去っていく。

気づいたアメリアは、ハッと目を戻した。もういってしまうのかと残念に思ったのも坂の間、長い銀髪を揺らして遠くなっていく後ろ姿に見惚れた。

知らず知らず、手を組んで一心に〝推し〟を見送った。その隣で、エリオットは更に不機嫌なオーラをまとう。

「どういうことか説明してもらっても?」

ミッシェルの姿が見えなくなってすぐ、エリオットが問いかけた。

すっかり自分の世界に浸っていたアメリアは、反応に遅れた。気が抜けたまま顔を向けたところで、ガシリと頭を掴まれてびっくりした。

「お、乙女の頭を掴むなんて、紳士あるまじき行為ですよっ」

アメリアは、じたばたした。すると、頭を押さえて固定しているエリオットが、ずいっと顔を寄せてきた。

「同性の前で、恋したように顔を赤らめて、隣の美男子の存在を頭から見事に消す令嬢もいないと思うがな」

あれ、なんか怒ってる……?

目の前の美しい彼の顔には、青筋が立っているのが見えた。どうやら、何やら勘違いされている様子だ。

――これは恋ではなく、推しへの愛である。

「もう一度問う。お前にとって、『ミッシェル』とはなんだ?」

この〝高貴なる令嬢〟への気持ちだけは偽れない。前世からのファンであるアメリアは、カチリとスイッチが入る音を聞いた。

「私にとって、ミッシェル様は女神様なのです!」

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