何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】
「…なんで…。」
その日の夜更け、京司は、火事で燃えた場所に一人で来ていた。
そこはテープが張られ、立ち入り禁止となっていて、辺りは燃えつきた灰しか残っていない。
「くやしいんでしょ?自分の城が燃やされて。」
こんな場所に立ち入る者なんていないと思っていたのに、いつの間にか京司の隣には、かずさが立っていた。
「くやしい?」
かずさの口にしたその言葉を反芻(はんすう)した京司は、眉をひそめた。
「ちがうの?」
「…この城は別に俺の物じゃない。」
「何言ってるの?あなた天師教でしょ?」
かずさが、少し強めの口調で、珍しく彼に突っかかっていった。
何がそんなに気に入らないのか、京司には分からない。
「どうして、天音を助けに行ったの?」
更に畳み掛けるように、かずさが尋ねた。
やはり彼女は、まるでその場にいたかのように、全てを知っていた。
見てもいないはずなのに…。
しかし、京司はその事には、深く突っ込む事はしなかった。
聞いたところで、彼女が簡単に答えるとは到底思えない。
「…アイツの声が聞こえた気がした。」
「彼女、死んだ方が幸せだったかもしれない…。」
かずさはどこか寂し気な目を、遠くへと移した。
その目に映るのは、ただの灰色。
「バカ言うなよ。死んで幸せな奴なんていねーよ。」
京司は真っすぐと前を見ていた。
そして、かずさも真っ直ぐと京司を見据えた。