何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】

「私よ。星羅。」
「せ…いら…?」

京司はまさかと思い、マジマジと彼女を見つめた。
彼女が、星羅が目の前にいるなんて信じられないといった顔で。
もちろん最後に彼女に会ったのは子供の頃。
しかし、確かにその面影はある。

「あなたに話があって来た。」

星羅は真っすぐ京司を見つめた。

「ど、どうしてお前が…。」

京司は驚きを隠せず、言葉が続かない。
聞きたい事はたくさんあるのに、頭がうまく回らず、言葉が出てこない。

「なんでここへ…。」

そして京司は、なんとかその一言を絞り出した。

「天音を助けて…。」

しかし、返って来たその言葉は、京司の問いに対する答えではなかった。

「え…?」

コツコツ
誰かの足音が遠くから聞こえた。

「天師教様ー?」

どうやら誰かが京司を探しているようだ。

「くそ。星羅今は見つかったらまずい。」

小声で京司は星羅に言う。

「私は、あなたにもう一度会うために妃候補になった。」

星羅の真剣な眼差しが、もう一度京司の瞳を見た。

「え…。」
「とにかく。一度天音に会って。」

タッタッタ

その言葉を残し、星羅は逃げるようにその場を走って立ち去った。

「…星羅…。」

京司は、その懐かしい名をもう一度つぶやいた。

『京司また会えるよねー!』

星羅と別れたのは、幼い頃。
まさかあの星羅が、妃候補になっていたなんて…。

『私の友達。同じ部屋の子もそんなような事言ってた…。』

天音と星羅は同じ妃候補…か…。
そこで、つながった。
二人は顔見知りに違いない。だから彼女の口から天音の名が出てきたのだ。

『あの時死んでた方が、よかったのかな…?』

もちろん、京司だってあの日の天音の表情が忘れられない。
彼女に会いに行きたいのはやまやまだが、放火事件があってから、城の中の警備は強化されていて、辺りには兵士ばかり。
今日だって、やっとの事でこの池までやって来ていた。

「妃候補…近いようで遠い…。」

同じ城の中にいるのに、彼女とはもう簡単には会えなくなっていた…。


< 152 / 287 >

この作品をシェア

pagetop