何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】
「私よ。星羅。」
「せ…いら…?」
京司はまさかと思い、マジマジと彼女を見つめた。
彼女が、星羅が目の前にいるなんて信じられないといった顔で。
もちろん最後に彼女に会ったのは子供の頃。
しかし、確かにその面影はある。
「あなたに話があって来た。」
星羅は真っすぐ京司を見つめた。
「ど、どうしてお前が…。」
京司は驚きを隠せず、言葉が続かない。
聞きたい事はたくさんあるのに、頭がうまく回らず、言葉が出てこない。
「なんでここへ…。」
そして京司は、なんとかその一言を絞り出した。
「天音を助けて…。」
しかし、返って来たその言葉は、京司の問いに対する答えではなかった。
「え…?」
コツコツ
誰かの足音が遠くから聞こえた。
「天師教様ー?」
どうやら誰かが京司を探しているようだ。
「くそ。星羅今は見つかったらまずい。」
小声で京司は星羅に言う。
「私は、あなたにもう一度会うために妃候補になった。」
星羅の真剣な眼差しが、もう一度京司の瞳を見た。
「え…。」
「とにかく。一度天音に会って。」
タッタッタ
その言葉を残し、星羅は逃げるようにその場を走って立ち去った。
「…星羅…。」
京司は、その懐かしい名をもう一度つぶやいた。
『京司また会えるよねー!』
星羅と別れたのは、幼い頃。
まさかあの星羅が、妃候補になっていたなんて…。
『私の友達。同じ部屋の子もそんなような事言ってた…。』
天音と星羅は同じ妃候補…か…。
そこで、つながった。
二人は顔見知りに違いない。だから彼女の口から天音の名が出てきたのだ。
『あの時死んでた方が、よかったのかな…?』
もちろん、京司だってあの日の天音の表情が忘れられない。
彼女に会いに行きたいのはやまやまだが、放火事件があってから、城の中の警備は強化されていて、辺りには兵士ばかり。
今日だって、やっとの事でこの池までやって来ていた。
「妃候補…近いようで遠い…。」
同じ城の中にいるのに、彼女とはもう簡単には会えなくなっていた…。