何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】
「…寒い…。」

その日、天音は城の外へ出て、城の前の階段に一人座り込んでいた。
今は授業も行われてはいないため、妃候補達は時間を持て余していた。
そのため、妃候補達の町への出入りは自由だ。

「天音。全部壊れたね。」

そんな天音に突然話しかけてきたのは、みるかだった。

「…。」

しかし、その声を聞いても、天音は目を伏せて何も答えない。何も見てはいない。

「この寒さはこの世の終わりを表すサイン。」

みるかはそんな天音に構う事なく、隣で一人話し続けた。
天音の同意は、全く求めてはいないようだ。

「…。」
「みんな壊せばいいんだよ。誰も信じちゃだめなんだよ。」

みるかは冷たい言葉を吐きながら、面白そうに笑う。

「月斗は悪者。りんは偽善者。星羅は敵。青は嘘つき。」
「え…?」

天音は少し顔を上げた。

「かずさは未来を知っていても何もしない預言者。」

ザ―

その時、この国には似つかわしくない、冷たい風が吹き荒れた。


「京司は…。」

そう言ってみるかは、天音の顔を無理やり覗き込んだ。

「クスクス。これは面白いから言えないや。」

すると、みるかが不気味に笑った。

「…。」

しかし、その笑い声に、天音が顔を上げる事はない。

「周りは敵だらけだよ。天音。」

そう言ったみるかの髪を、冷たい風が揺らした。


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