身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「私がショックを受けたのは――」

もっとシンプルなことだ。仁の愛が椿には向いていないのだと理解し、傷ついた。

仁を射止めることなど到底無理だと心の奥底ではわかっていたはずなのに。

その事実を突きつけられると、どうしようもなく悲しかった。

「私にはしてくれなかったキスを、あの人としていたことが悔しくて……」

目に涙を溜める椿に、仁は身を引いて息を呑む。

「椿……?」

呆然とする仁をよそに椿は立ち上がり、寝室の方へ歩いていった。

「椿、どこへ――」

「来ないでください!」

椿は叫んで、リビングと寝室の間にある重厚な木製の扉に手をかける。

「私を自由にするなんて綺麗事を言っておいて、つまりは私と結婚したくないだけじゃありませんか!」

本当は、部屋の外に飛び出したかったが、外には報道陣がいるかもしれない。これ以上、仁に迷惑をかけるのは論外だと、錯乱しながらも冷静に判断した。

涙でボロボロの顔を他人に晒すのもごめんだ。

仕方なく、寝室に籠城することを思い至った。

「愛してくれないのなら、もう優しくしないで!」

両開きの扉を素早く閉めようとする椿。

しかし、扉の重さにもたついている間に、追いかけてきた仁が体を割り込ませた。
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