身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
仁の手が椿のこめかみをそっと撫でる。その手がゆっくりと降りてきて頬を優しく包み込んだ。

「椿。俺は支配関係の残った状態で愛を囁き合ったところで無駄だと思っている」

こつんと額と額がぶつかり思わず椿は目を細めた。だが、ゆっくりと瞼を開いた先には仁の漆黒の瞳があって、その美しさに目を奪われた。

困ったような顔をしているにもかかわらず、仁の瞳は鋭く厳しい。

すべてを受け入れ背負うものがする強い眼差しがそこにはあった。

「俺は君が大切だ。愛しているからこそ、俺が汚してはいけないと思った。わかるな?」

言葉の真意を確かめる間もなく、仁に頬を寄せられ、心臓がバクリと跳ね上がる。

「かわいい椿。俺がこれまで出会った女性の中で、最も愛らしく美しい人」

囁く声はかつてのように甘く優しい。

それが決して生半可な口説き文句ではないとわかっていても、あまりに大仰な誉め言葉に疑いの気持ちが晴れない。

「どうして今さら、お世辞なんて言うの……?」

「お世辞を言ったことなど、今まで一度だってない」

仁の掠れた声を聞いて、ようやく確信する。

椿が願っていた通り、あの優しかった仁が本物の彼なのだと。

余計に涙が溢れそうになり唇をかむ。
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