身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
紅茶を淹れ終わると、仁はバトラーを一度下がらせた。

「さっき、怒っていたのか?」

仁がそう尋ねると、椿は少々いたたまれない顔をしておずおずと上目遣いした。

「仁さんがひとりでごちそうを食べてしまっていたので……」

「椿の分は、椿が起きてから注文し直すつもりだった」

「そういうときは食べ物を廃棄するのではなく、私を起こす方向でお願いします」

そう言う予感はしていたが、だからって安らかな寝顔の婚約者を叩き起こすわけにはいかないだろうと、仁は心の中で言い訳する。

「それに、こういうものは誰かと一緒に食べるからおいしいんじゃありませんか」

「……それには同意する」

椿はティーカップを持ち上げ口元に運ぶと、香りを大きく吸い込んだ。

「すごくいい香り」

うっとりと目を細めている椿を見て、奉仕しがいのある子だなと仁は口元を緩める。

「こんなにたくさんケーキが並んでいるのは初めてです。どこから手をつけたらいいでしょう?」

「マナーとしてはアミューズ、そしてセイボリーだな。温かいもの、甘くないものから順に食べて上段にあるスイーツへ向かっていく……が、ふたりきりのときは好きに食べてくれてかまわない」

「では、お言葉に甘えさせていただきます」

< 124 / 258 >

この作品をシェア

pagetop