身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
――ああ。だから俺は彼女に惹かれたのか。

自分にはないものを持っている、だからこそ尊く感じられた。

父親に自由を奪われた椿を見て、あんなにも怒りが湧いたのは、無意識のうちに聖域のように感じていた椿を汚されたからだろう。

「仁さん、このキッシュ食べてみてください。すごくおいしいですよ」

甘いものを食べて塩みのあるものが恋しくなったのか、椿の手が今度は下段に伸びている。

無邪気にはしゃぐ様子に、仁の口元が勝手に綻ぶ。

「そうか。気に入ったなら俺の分も食べてかまわない」

「そうではなくて……」

椿は仁をじっと、おねだりするような目で見つめてくる。

一緒に味わいたいのかと察しがついて、仁はキッシュを取り皿へと移した。ナイフとフォークで切って口に運ぶ。

なんてことないスモークサーモンとポルチーニのキッシュだが。

――おいしい、か。

これまで味覚が勝手に処理していた〝おいしい〟とはまた違った感覚を覚え、じんわりと胸の奥から感動が湧き上がってきた。

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