体育祭(こいまつり)
 あ。

 また視線だ。もう、何度目だろう。また健二だ。

「……」

 少しの間、見つめ返す。健二の視線は昨日とは違って、鋭さはなかった。ただ、真剣さは変わらなかった。

 私は手で、グラウンドを指し、リレーが始まるよ! というジェスチャーをした。健二は少しの間、まだ私を見つめていたけど、分かった、と言うように頷いて、視線をグラウンドに戻した。

「健二?」
「……うん」
「っもう、あいつも女々しいね。何が愛よ。自分はちっとも行動しないじゃない」

 悠香が苛立たしげに言う。私は複雑だった。行動されても困るし、このままでも困るし、正直どうしていいか分からなかった。

 ただ、悠香にこんな言葉を言わせるのは悲しかった。

「あ、始まった。八百からだね。徳山君は?」
「えーっと、どこかな、あ、三番走者みたい」

 陸上競技はあっという間に終わってしまう。しっかり見なきゃ。

 バトンが、徳山君に、わ・た・る!

 早い!! そして、やっぱり綺麗なフォーム。

 私は知らず知らず泣いていた。

 一生懸命走る徳山君。
 久しぶりに思い出した元彼が徳山君と重なる。

 ……誰でもよかった。失恋を癒してくれるのであれば。そして、それが徳山君だった。
 私は徳山君のおかげで、現実に戻ってきた。なのに、徳山君を傷つけてしまった。徳山君に対する気持ちは恋ではなかったから……。

 ごめんなさい。

 徳山君は一人抜いて、一位になって、次の走者にバトンを渡した。

 バサッ。

 タオルが上から降ってきた。

 もう、分かる。健二だね。当の健二はタオルをかけてどこかへ行ってしまった。
 私はありがたく、そのタオルで涙をぬぐった。

 少しして、

「あれ? りり、あれ健二じゃない? って、だよ!! あいつ、四百に出るんだ!」

 興奮気味の悠香の声に、私はグラウンドに目を凝らす。
 本当だ。健二が一番走者のところに並んでいた。
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