体育祭(こいまつり)
***

「先輩、最近部活見に来ませんね」

 廊下で偶然徳山君とすれ違ったときだった。悲しげで、それでいて責めるような瞳が私を捕らえていた。

「……」
「ま、体育祭も近いし、走りこみしてる男子が多いからな。いづらいよな」

 横にいた健二がさりげなくそう言った。

「う、うん。そう。創作ダンスの練習もあるし……」
「創作ダンスね。いまいちよくわかんないんだよな、あれ、抽象的過ぎて。男子はタンブも長距離走もあるから大変なんだぜ」

 健二が私の言葉の後を引き継ぐ。


 うちの高校の体育祭は変わっている。


 ビル街にある学校のグラウンドは小さくて、体育祭のときだけ、少し遠くにあるグラウンドを借りる。

 泊まり込みで二日に渡る体育祭。恋愛イベントとしても有名だ。

 その二日のうちに男性からキスをされると恋人同士になれるという言い伝えがあるからだ。

 また、体育祭の目玉は他校が応援コンテストや男子のタンブリング、女子の創作ダンスなのに対し、うちの学校の目玉は、それらにもう一つ、全学年男性長距離走というものが加わる。
 グラウンドを五周、外周を三周。約八キロに渡る長距離走。
 そして、この競技で上位になった男子はキスを拒まれないというジンクスもあって、男子は体育祭が近付くと、みんな走りこみをするのだった。

「でさあ……」

 健二は他の話をふるようにして、そのまま通り過ぎようとした。だが。

「その人と付き合っているんですか?」

 徳山君は私たちを逃がしてくれなかった。
 私と健二は一瞬目を合わせた。健二は私から目をそらして、徳山君を見た。


「そうだって言ったら?」


 え? 私は驚いて健二を見る。健二は挑戦的な視線を徳山君に送っていた。

 ?!

「……」

 徳山君は一瞬黙って、健二の目をじっと見つめた。

「そう……ですか……」
「……すみませんでした」

 と目伏せ、言うと、徳山君は歩いて去った。その背中は少し寂しく見えた。私は自分が傷つけてしまったことを後悔した。
 
 ごめんね、徳山君。

 それにしても。

「……健二」

 私は戸惑って、健二を見つめた。

「ばーか。ああ言えば、ひくと思ったんだよ。ま、あれでひくようじゃ、それぐらいの気持ちってことだな」

 健二は私から目をそらすようにして、歩きながらそう言った……。
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