腹黒梨園の御曹司は契約結婚の妻を溺愛したい
京都での御苑屋かかりつけのお医者さんがすぐに往診に来てくれた。
「過労ですね」
診察を終えると、廊下で待ち構えていた私たちにあっさりと告げる。
「点滴で熱は下がると思いますが、静養されるのが一番ですよ」
「静養と言いますと、どのくらい?」
左右七さんが恐る恐る聞いた。
「少なくとも、二、三日は床から出ないことをお勧めします」
「ありがとうございました」
最初に顔を上げたのは、八重さんだった。
「お医者様をお見送りしてきます。それに坊っちゃんが目を覚ました時にすぐに食べられるように、お食事の準備しておかなくっちゃ」
「何から何まですいません」
「いいえ。それが私の仕事ですから」
さすが、強い。こうしてずっと母親代わりとなって、左右之助さんを支えてきてくれたのだろう。
「お台所のこと教えてくださいね」
「ええ、坊っちゃんが回復しましたら」
対して左右七さんはずっとメソメソしている。
「お身体だけでなく、ご心労も溜まってらしたに違いありません〜」
「ちょ、ちょっと、左右七さん……こっちへ」
廊下で騒いでいたら、左右之助さんを起こしてしまう。適当に向かいの部屋に入ると、そこは小さな和室だった。三味線か義太夫のお稽古でもするところなのかもしれない。
「旦那が倒れてから坊っちゃん、病院とお稽古場の往復で……しかも旦那がいつ舞台に立てなくなってもいいように、自分のお役以外に旦那の分までお稽古してたんです〜。それに、亡くなった時は薪歌舞伎の興行をしながら葬儀のご手配に、今は送る会のご準備に……」
おじいさんが亡くなったことや、その前後のゴタゴタについては気の毒だとは思うけど、あまり同情する気にはなれなかった。
「それに御苑屋の先行きについても奔走なさって……」
週刊誌に繋ぎつけて、自分たちを撮らせる算段なんかしてれば忙しかったでしょうとも。まさか左右七さんはリークのことを知らないだろうから、言えやしないけど。
かける言葉を探していると、左右七さんは予想外のことを口にした。
「殊に、御苑屋を出る弟子の、ひ、引取先を探したりなんて……っ」
「え?」
思わぬ話に思考が止まった。
「御苑屋を……出る?」
「過労ですね」
診察を終えると、廊下で待ち構えていた私たちにあっさりと告げる。
「点滴で熱は下がると思いますが、静養されるのが一番ですよ」
「静養と言いますと、どのくらい?」
左右七さんが恐る恐る聞いた。
「少なくとも、二、三日は床から出ないことをお勧めします」
「ありがとうございました」
最初に顔を上げたのは、八重さんだった。
「お医者様をお見送りしてきます。それに坊っちゃんが目を覚ました時にすぐに食べられるように、お食事の準備しておかなくっちゃ」
「何から何まですいません」
「いいえ。それが私の仕事ですから」
さすが、強い。こうしてずっと母親代わりとなって、左右之助さんを支えてきてくれたのだろう。
「お台所のこと教えてくださいね」
「ええ、坊っちゃんが回復しましたら」
対して左右七さんはずっとメソメソしている。
「お身体だけでなく、ご心労も溜まってらしたに違いありません〜」
「ちょ、ちょっと、左右七さん……こっちへ」
廊下で騒いでいたら、左右之助さんを起こしてしまう。適当に向かいの部屋に入ると、そこは小さな和室だった。三味線か義太夫のお稽古でもするところなのかもしれない。
「旦那が倒れてから坊っちゃん、病院とお稽古場の往復で……しかも旦那がいつ舞台に立てなくなってもいいように、自分のお役以外に旦那の分までお稽古してたんです〜。それに、亡くなった時は薪歌舞伎の興行をしながら葬儀のご手配に、今は送る会のご準備に……」
おじいさんが亡くなったことや、その前後のゴタゴタについては気の毒だとは思うけど、あまり同情する気にはなれなかった。
「それに御苑屋の先行きについても奔走なさって……」
週刊誌に繋ぎつけて、自分たちを撮らせる算段なんかしてれば忙しかったでしょうとも。まさか左右七さんはリークのことを知らないだろうから、言えやしないけど。
かける言葉を探していると、左右七さんは予想外のことを口にした。
「殊に、御苑屋を出る弟子の、ひ、引取先を探したりなんて……っ」
「え?」
思わぬ話に思考が止まった。
「御苑屋を……出る?」