冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
「なんだか、こんなに幸せでいいのかと思って。結婚したのは結果として両思いになった相手で、これからもずっと優は俺の元にいると言ってくれた。これは夢なんじゃないかなんて、俺らしくもなく考えてた」

 こんな幸せな時間が現実じゃないだなんて困るとでもいうように、彼に添えた自身の手にぎゅっと力を込めると、一矢さんも私の背に腕を回して抱きしめてくれる。

 この温もりを失いたくない。

 これまで生きてきた中で、私が諦めてきたものはたくさんある。というよりも、諦めてばかりだった。
 人と親しくなること、オシャレをすること、自分の望んだ仕事に就こうと目指すこと……些細なものもあれば大きなものもある。
 そのどれもを、私が〝愛人の子〟という立場であるがゆえに手にできなかった。

 もしあのとき、私ががむしゃらにもがいていれば……と思わなくもないが、京子や陽を苦しめている立場の私には、やっぱりそれはできなかった。正信に『出しゃばるな』とずっと言われてきたせいもあるのだろう。私が幸せを感じるなんて、許されないとすら思っていた。

 そんな繰り返しばかりで、思えばいつしか自分からなにかを望まなくなっていた。〝どうせ無理りだから〟と、傷つく前に自分を納得させて、なにを言われてもじっと耐えるだけ。そうして、ただ平穏に日々が過ぎればいいと過ごしてきた。

 けれど、初めて誰かを好きになって思いが通じ合えば、もうこの人だけは手放したくないと望んでしまった。
 一矢さんだけは諦めたくない。これからもずっと彼の隣にいるためには、自分も変わらなくてはいけないのだと自然に思えた。

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