冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
 身支度を整えた後も、今日はふたりでゆっくりしたいという一矢さんの思いを受けて、再びベッドの上に戻っていた。
 急いですることなんてなにもない。こんなふうにゆっくりと過ごす休日も悪くないと、同意したのはいいけれど……。

 ヘッドボードにもたれて座った一矢さんの長い脚の間に収められた私は、後ろから抱きすくめられて身の自由を優しく封じられてしまった。

「優」

 この低くて優しい声が好き。たった二文字の自分の名前が、なにか特別なもののように聞こえてくる。

「私の名前は……」

 唐突に話し出した私の声に、一矢さんは口を挟まずに耳を傾けてくれる。彼のぬくもりを感じていたら、話さずにはいられなかった。この格好なら、正面から顔を見られないからちょうどいい。

「実父である三橋正信がつけました。私が生まれるより半年ほど前、奥様が第一子となる陽お嬢様を出産されました。父は私が生まれると、お嬢様と性別も同じだったのもあって、似通った名前にしておけば覚えやすいという理由で〝ゆう〟と名づけるように母に命じました」

 一矢さんの腕にわずかに力が入ったのが伝わってきたが、そのまま続ける。

「母はせめて使う漢字には自分の思いを乗せたいと、優しいという字をつけくれました。母はいつだって私に対してうしろめたい思いを抱いてばかりで、口を開けば『ごめんね』って繰り返すんです」

 そう言葉にしてみれば、私も母も謝罪ばかりを口にしてきたと気づく。
 母は自身や私にまつわるすべてを隠さずに話してくれた。そうでなければ、身勝手な不倫の結果に私を生んで……と、私は母を恨んでいた可能性もある。
 事実を打ち明けるのは、相当苦しかったのだろうと今さらながらに思った。

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