冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
 祖母とはいつだって電話や手紙でやり取りするぐらいだった。会いに行きたいと思っても、遠く離れた離島に住んでいるため簡単にはいかない。
 さすがに病気がわかったときは、島内の診療所では手に負えずに本島へ来ていたらしいが、それも私の生まれる前の話だ。祖母が本島に来るのは年に数回の検査のみ。そこで少し顔を見られるぐらいだった。
 母も、祖母と一緒にいてあげられないのは不安だっただろう。

「優の家族の問題は、夫である俺の問題でもある。有里子さんは頑なに金を返すと言っていたが、俺は受け取るつもりはない。それなら、いつか生まれるかもしれない俺たちの子のために使ってやって欲しいと伝えてきた」

 思いが通じ合ったのはついさっきのことだ。それがもう子どもの話になるなんて……。恥ずかしさで思わず赤面した。そんな私を見て、一矢さんはおかしそうにくすくすと笑っている。

「なんだ、優。俺は当然、君との子を望んでいるんだが」

 その口調から、半分は私を揶揄っているのが伝わってくる。普段は優しい一矢さんだが、どうやらこういう意地悪な一面もあるらしいと悟った。

「い、いつかは……」

「そうだな。今から楽しみだ」

 そう言ってもらえるのは嬉しいが、やはり恥ずかしさはある。

「実家での働き口もなんとかなりそうだから、心配はいらない。それより、有里子さんがいきなり大金を返す以上、おそらく三橋社長は俺が関与していると思うだろう。こちらからもそう匂わせるからなおさらだ。それが彼への牽制になる。俺が入れ代わりに確実に気づいているのだと。向こうに後ろめたい事実があるだけに、自ら騒ぎ立てはしないだろう。だから、有里子さんも無事に解放されるはずだ」

「なにからなにまで、本当にありがとうございます」

「家族として、当然のことをしたまでだ」

 一矢さんはそう言うけれど、私たち母娘の味方をしてくれた人はそれほどいなかった。一番気にかけてくれていた凛たち家族も、仕事を辞めてしまえば関りも希薄になっていく。
 そんな私の元に、再び味方になってくれる人が現れるなんて思ってもみなかった。

「ありがとう、一矢さん」

 目が合った途端に再び施された口づけに、そっと瞳を閉じた。

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