冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
 それから数日後、一矢さんは阿久津さんを連れて帰宅した。あらかじめ聞かされていた私は、三人分の夕飯を用意して待っていた。

「優ちゃん!」

 開口一番、大きな声で私の名を呼んだ阿久津さんは、まさに抱き着かんばかりの勢いでリビングへやってきた。それを後ろから羽交い絞めにするように一矢さんが止める。

「良吾、優は俺の嫁だ。気安く触るな」

「なんだよ、一矢。謝ろうとしただけだろ」

 ふたりの気の置けないやりとりに思わず噴き出してしまった私に、そろってきょとんとした顔を向けられてしまう。

「優がこんなふうに笑ったところ、初めて見た」

 呆然と一矢さんが呟くから、はしたなかったかと恥ずかしくなって俯いた。

「一矢のお嫁さん、めちゃくちゃかわいい」

 すかさず阿久津さんが茶化せば、真に受けた一矢さんは真剣な顔をして『当然だ』と頷く始末。恥ずかしさで、私の顔はますます火照ってしまう。

「優ちゃん」

 しばらくすると、まじめな雰囲気を纏った阿久津さんが近づいてきた。
 俯いてばかりいるのも失礼かと勇気を出して視線を上げると、さっきまでの明るさからは想像もできないような悲痛な表情の阿久津さんがいた。

「本当に、ごめんね。よく確かめもしないで軽はずみに話をしたばっかりに、優ちゃんを苦しめることになってしまって、申し訳なかった」

「い、いいえ。そもそも私の出自は快く受け入れてもらえるようなものではないですし、そうは言っても一矢さんははじめから私を気遣ってくれて……あ、阿久津さん?」

 頭を下げたまま、なかなか起こそうとしない彼にだんだん焦りを感じてしまう。阿久津さんに悪い感情を抱いていないのは私の本心だ。だから、謝罪はここまでにして欲しい。

< 107 / 150 >

この作品をシェア

pagetop