冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
* * *
(SIDE 一矢)

 ひと晩家を空けるなど、この仕事に就いていれば珍しくもない。それなのに優が嫁いできてからというもの、彼女が側にいない夜がこれほどまで味気ないものだったのかと、夜勤のたびに気が沈む。

「はあ……」

「あら、緒方先生。ため息なんて吐いて、お嫁さんが恋しいのかしら?」

 からかうように声をかけてきたのは、師長の長村(おさむら)さんだった。母と同年代の彼女はいつも明るくて、そのさっぱりとした性格は付き合いやすいと感じていた。が、こういう時ばかりはバツが悪い。

「ご察しの通りですよ」

 思わず拗ねた口調になりそうなのをなんとか堪えたはずなのに、彼女には俺の考えなどお見通しなのだろう。くすくすと笑われてしまった。

「結婚してから、先生もずいぶん変わられましたね」

「変わる?」

「ええ」

 微笑ましく俺を見る彼女の視線は、まさしく母親のそれだ。

「仕事一辺倒だったのに、最近では一秒でも早く帰りたいって感じですし、なにより表情が柔らかくなったって、看護師の間でも言われてますよ」

 彼女だけでなく看護師の間で言われていたのかと思うと、気恥ずかしくなってくる。思わずごまかすように仏頂面になれば、再びくすくすと笑われた。

「いいじゃないですか。幸せな証拠ですよ」

 そう言いながら彼女は、ブラインドを指で寄せて外を眺めていた。

「明日は、雪にならないといいんですが……」

 つられるように外に目を向けるが、すっかり暗くなってしまってはその空模様がどうなっているのか、少しも見極められなかった。


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