冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
 雪に慣れない都会では、ほんの少し降られるだけで大騒ぎになる。わずか数センチでも積雪しようものなら、途端に交通機関が麻痺しかねない。
 どれほど慎重にしていても、事故が増える。そうなれば、こんなふうにゆっくりと過ごせなくなる可能性が高い。


 夜が明けても、空には重苦しい色の雲が広がっていた。

「早く帰りたい」

 優は寂しい思いをしていないだろうかと想像して、ついそんな愚痴をこぼしていた。
 いや。そう思っているのは俺の方だな。それを素直に認めるのに、もはや抵抗はなくなった。


 特に問題もなく過ごしていた中、スマホの呼び出し音が鳴ったのは、少し遅めの昼食にしようとしていたときだった。夕飯は優の美味しいご飯が待っているからと、ずいぶん少なめの量だ。それを見た師長が敏感に察してくすりと笑ったのは気づかなかったふりをしておく。

「良吾か。どうかしたか?」

『一矢、今大丈夫か?』

「ああ」

 話しながら、念のため入口に鍵をかけておいた。これ以上なにかを聞かれて冷やかされてはかなわない。

『嫌な噂を耳にした』

 思わず身構えてしまったのは、俺には〝噂〟に踊らされて優を傷つけてしまった過去があるからだ。良吾にしても、それはずいぶん気にしているはずだ。

 それにも関わらずあいつがそう切り出したのは、よほど無視できないものがあったからだろう。

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