冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
「なんだ?」

『どうも、三橋陽が帰国しているらしい』

 忌々しい名前を耳にして顔をしかめた。思わず舌打ちをしそうになる。

「ずいぶんとお早い帰国だな」

 これが大手を振っての凱旋帰国でないことぐらい、三橋陽を知っている人間には簡単に想像できただろう。追いかけた男に早々に捨てられて、しれっと戻ってきたというのが本当のところではないか。

『結局、追いかけた相手には貢ぎ切ったところで見限られたらしい。それでまたバーに出入りするようになったのを、見かけたやつが教えてくれた』

 思った通りだ。懲りない女だ。そんな経験をしたなら、しばらくは大人しくしていてもよさそうなものなのだが。

『どうも、一矢のことを聞いて回っていたようだ』

「そういえば結婚話が上がっていた相手はどうなったのかと、やっと思い出したってとこだろう。なんなら、次の相手にとぐらいに思ったのかもな」

 さすがに三橋社長のお叱りも受けただろう。それでもこうして他人の間で話題に登るような行動をしているのだから、あの親子の関係性も希薄なものだと窺い知れる。父親の叱責など、もはや響きもしないのだろう。
 まあ、成人した娘に親の言葉がそれほど大きな影響を与えるとも思えないが。

『おそらくな。もう結婚しているとわかれば、さすがに諦めると思うが……その結婚した相手が、自分の見下してきた優ちゃんだろ? 変な気を起こさなければいいけど……』

 良吾に指摘されてハッとした。まさか、ばかげた行動は起こさないと思うが、念には念を入れておいた方がよいだろう。
 通話を終えた途端の呼び出しに思わず舌打ちをしながら、手が空いたら優に連絡を取ろうと素早く立ち上がった。


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