冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
「三橋陽だな。優をどこへやった」

「正解! 優なら、本来一矢さんと結婚するはずだったのは私だからって、自分から出ていったわよ」

 それが嘘であることぐらい明白だ。この女が追い出したに違いない。

 こんな女にかまっている暇はない。一刻も早く、優を探し出さないと。彼女はきっと、どこかで泣いているはずだ。そんな姿を想像すれば、居てもたってもいられなくなる。

「警察を呼ばれたくなかったら、今すぐここを出ていけ」

 相変わらず馴れ馴れしく近づいて来た陽だったが、こちらの本気が伝わったのだろう。さすがに通報されるのはまずいと思うだけの常識はあったらしい。
 陽は、俺や優に対する誹謗中傷をわめきながら、バッグを手に退散し始めた。

「なによ、ばかばかしい。優のような愛人の子なんかといて、恥ずかしいだけじゃない。あんな女を次期院長婦人にするなんて、正気を疑うわ」

「君のようなアバズレの方が、よっぽど恥ずかしいがな」

 思わずそう言い捨てると、怒りをあらわにした真っ赤な顔で憎々しげに睨みつけてきた陽は、そのまま荒々しく玄関を出ていった。

 リビングに戻ってあらためて見回してみれば、優のスマホは置き去りにされていた。ほかの部屋はどうかと急いで回れば、彼女が気に入ってよく着ているコートがクローゼットにかけられたままになっているのを見つけた。
 まさかと思って再び玄関に戻ると、さっきは気づいていなかったが、いつも履いている靴がそのまま残されている。

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