冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
「一矢さん、私もその場に連れていってください」

「俺が話をつけてくる。ひとりになるのは不安かもしれないが、優はここで待っていてくれても……」

「いいえ。ことの発端は私にも関係しています。だから、私も連れていってください」

 心配そうな顔をしていた一矢さんだったが、私の決意が固いと悟ったのだろう。渋々連れていくと同意してくれた。



 翌日、一矢さんと私は三橋の家に向けて出発した。
 一矢さんは、場合によって病院から呼び出しがかかる可能性もある身だ。ここ二日の間、私の側にずっとついていてくれたようだし、大丈夫なのだろうか。

 それを聞いてみれば、今回の話はお父様である院長にも伝わっており、直々に動くように言われてきていた。
 そのため、呼び出しも極力ないように配慮されているらしい。それなら安心だと、少しだけ肩の力が抜けた。

 けれど、見慣れた街並みが視界に入ってきた途端に、心の中はすっと冷めていった。
 この辺りの光景には、懐かしさよりも悲しい気持ちが思い出されてしまう。

「大丈夫か?」

 敏感な一矢さんが、すかさず様子を伺ってくる。

「はい」

 まだ父と対面もしていないのに、ここで後ろを向くわけにはいかないとぐっと手を握った。



 三橋の家に到着した頃には、すっかり会話もなくなっていた。でも、隣に立った一矢さんにつながれた手が、勇気づけてくれる。

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