冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
「待たせて申し訳ないね、一矢君」

「お久しぶりです、三橋社長」

 通された応接室には、父のみが入って来た。穏やかな表情だったが、私に目を留めた途端に視線に鋭さが増す。それに気づいた一矢さんが、私を庇うように立ち位置を調整してくれた。

「顔合わせのとき以来になるかな?」

「そうですね」

 白々しいやりとりの中に、父がこちらの出方を伺っている気配を感じる。

「今回のことは、娘が迷惑をかけたみたいで悪かったね」

「警察に突き出されなかっただけ、ありがたいと思っていただきたい」

 温和な雰囲気を醸し出そうとした父に対して、一矢さんの対応はあまりにも冷淡なものだった。それに驚いた父だったが、すぐに平静を装ってみせた。でも、内心ではものすごくいらついているのだと、そんな姿ばかり見てきた私にはわかる。

「まあ、娘もやりすぎたところがあったかな。あいつには、きつく言い聞かせてある」

「二度目はないと思ってください。彼女が再びなにかをしてきたときは、もう容赦しませんので」

 陽のしでかしたことを父はあまりにも軽く捉えており、一矢さんとの温度差は大きい。いや、おそらく父は取るに足らない出来事だと、わざと装っているのだろう。本心では、さすがにまずかったと察しているはずだ。
 自身の子でもおかしくない年齢の一矢さんにここまで言われても、下手に言い返さない姿がそれを物語っている。

 一矢さんの言っていた通り、両家の立場はたしかに対等だったのだろう。それが陽のせいですっかり変わってしまったのだ。父も必死になっているのかもしれない。今にもあの聞き慣れた舌打ちが聞こえてきそうだ。

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