冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
「本日ここに来たのは、謝罪を求めてではありません」

 そう切り出した途端、父は露骨に顔をしかめた。この人は先の予定を乱されることをとにかく嫌う。いつだって自分の思うようにしようと、私や母を縛りつけてきた人だ。一矢さんのこの予測不能な発言は、父をいらつかせるのに十分だったようだ。

「なにかな? まさか慰謝料の請求とでも言い出すつもりかい? 身内のしでかしたことだ。そこは大目に見て欲しいんだが」

 この人と身内であるという事実に、心底嫌気がさしてくる。
 チラリと隣に座る一矢さんを見ると、なに食わぬ顔をしているようだが、その心中まではわからない。

「そんなものは必要ありません。妻の優が三橋の血を引いているのは否定できませんし、こうして結婚して私も縁続きになったのは事実です。が、金輪際、公の場で身内と公言するのはやめていただきたい」

 父の表情がますます険しくなっていくのが見て取れる。一矢さんはずいぶんと攻めた物言いをしているが、本当に大丈夫なのか。

「どういうことだ?」

 打って変わった不機嫌そうな声に、肩がビクッと跳ねた。長年にわたって植えつけられてきた恐怖心は、そう簡単には消えてくれない。
 けれど、隣に座る一矢さんがそっと手を重ねてくれた途端、怖がる必要はないのだと思えて体の力が抜けていく。

「緒方家と三橋家の結婚ですが、妻の入れ代わりはもうお認めしていただけますね?」

「……ああ。だが、血のつながりはあるのだから、それが陽だろうが優になろうが問題ないはずだ」

 実子にも一矢さんにもあまりに不誠実な物言いだが、正信は昔からこういう人だ。一矢さんの前だというのに、もう取り繕うともしていない。

「ええ、あなたとそう約束したと、父も申していました」

 なにも問題ないじゃないかとでも言うように、父は足を組んで少々横柄な雰囲気を醸し出した。

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