冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
「お前、病院はお兄さんが継ぐからって、自分はへき地医療に携わりたいって、ずっと言ってたじゃないか」

 そんな時期もあったと、思わず目を細めて思い起こしてしまう。

「それなのに、なにが好きな人ができただ。お前のお兄さん、勝手にどっかの開業医の娘と恋に落ちて、気づけば婿養子に入って。止めないおじさんも大概だけど、それはないんじゃないのか。おかげで一矢は、夢を諦めて急に後継ぎにされて。今さら一矢に目を向けるなんて、卑怯だろ」

 良吾の話は事実だ。兄は父の反対を振り切って、駆け落ちでもするように婿入りしてしまった。止めようにも、入籍されてしまえばどうしようもなかったのが実情だ。
 父と兄に憤りを感じなかったかと言えば嘘になる。あの一件で、俺の目指していた将来は閉ざされてしまったのだから。
 しかし、生まれついた性分なのか、最終的に仕方がないと受け入れたのは俺自身だ。

「それにおばさんだって、痴呆症を患ったおばあさんの対処を全部一矢に丸投げした」

 実子である父は仕事で忙しいと逃げ、散々祖母にかわいがられてきた兄は名字が変わって無関係だと、祖母の面倒や施設への手続きをすべて投げ出した。それらをお嬢様育ちの母にできるはずもなく、唯一任せられそうだった姉は、少し離れた土地へ嫁いでしまって無理だった。
 動ける人間が俺しかおらず、様々な手続きとどうしても人手のないときに面倒をほんの数日みていた。

「お前のおばさん、箱入りすぎだろ」

 すぐに施設へ入所できたからよかったものの、実家の付近は激戦区だったらしく、金を積めば即座に解決できるという状態でもなかった。

「高校のときだって……」

「良吾」

 放っておけばはるか昔の話になりそうで、さすがに口を挟んだ。

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