冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
「今さらだが……普段、俺がいない間、優はどうしているんだ?」

 別に聞かれて困る内容はない。

「掃除をしたり、買い物に出かけたりしています」

「それだけか?」

 だいたい家事をしているうちに一日が終わっている。時間があれば、図書館で借りた本を読んでいるぐらいだ。一矢さんにしてみれば、なんとも怠惰で退屈な過ごし方に聞こえるかもしれないが。

「近くに図書館を見つけたので、そこへ行く日もあります。何冊か借りてきて、時間があれば読んでいます」

「そうか。……ほかにどこかへ行ったり、誰かに会ったりはしないのか?」

 接する時間が少ないから、なんともぎこちないやりとりになってしまう。およそ夫婦には思えないだろう。

「ほかに……」

 ここで彼に言うようなほどのことはあっただろうかと考えていると、わずかに一矢さんが目を細めた。なにか不快な発言でもしてしまっただろうかと、途端に焦りはじめてしまう。
 待たせてはいけないと、慌てて言葉を発する。

「ほ、ほかには、図書館の近くの雑貨屋へ行くぐらいです。あ、あの、私、友人はそれほどいないですし、一番の仲の良かった子は進学を機に他県へ行ってしまったので。その……あとは、たまに母が電話をくれるぐらいで……」

 なにが彼を不快にさせるのかがわからない。嘘偽りのない話とはいえ、どう反応されるかが怖くて再び俯いた。

「……そうか」

 納得してくれたのだろうか。その声音に怒っている様子はないと、小さく安堵した。

「家事ばかりさせてすまない」

「い、いえ。私にできるのはそれぐらいですし、養ってもらっている身なので」

 まさか謝罪されるとは思っておらず驚いた。

「わ、私の方こそ、あなたにとって不本意な結婚でしたのに……すみません」

 それからしばらくの間、どちらも声を発しなかった。

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