冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
 この結婚は、当初は私も彼もどちらもが望んでいなかった。
 彼が最初に宣言した通り、お互いになれ合わないでまったくの他人として暮らしていれば、むなしさも切なさも感じずにいられたかもしれない。

 けれど、彼の優しい一面を知ってしまった私は、一矢さんに望まれていないという事実をどうしようもなく寂しく感じるようになってしまった。

 一矢さんには、大切にしている女性と病院を継がせたいと思っているお子さんがいる。はじめからそうわかっていたのに、こんな私にさえ優しさを向けてくれる彼のことが、いつの間にか気になる存在になっていた。
 ううん。もう気になるなんて程度じゃないのかもしれない。


 だから、今日みたいに一緒に出かけて、その先で彼が親しくしている人たちに妻だと紹介してもらえたのは、戸惑いと同じぐらい嬉しさも大きい。もしかして彼が、私を受け入れてくれつつあるんじゃないかって、勘違いしそうになってしまう。

 こんなのだめだ。後から割り込んだ人間が、少しばかり優しくされただけで喜ぶのは間違っている。私と結婚していなければ、それを向ける相手はほかの女性だったのだから。

 嬉しいだなんて……。
 
 こんな気持ちが知られてしまったら、きっと彼は私を軽蔑するだろう。

 どうにも打ち解けきれない雰囲気の中で食事を終えると、ケーキを受け取って帰宅した。







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