冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
 来客の知らせを告げるチャイムは、帰宅して三十分ほど経った頃に鳴り響いた。いよいよかと、一気に緊張感が増す。
 出迎えを一矢さんに託すと、少しでも対面を遅らせるかのようにキッチンにこもって、飲み物の用意にとりかかった。

「おじゃまします!」

 聞こえてきたのは、落ち着いた声音の一矢さんとは対照的な陽気な声だった。

「良吾、そこに座ってろ」

 一矢さんの話し方が、いつもよりもずいぶんと砕けた雰囲気になっている。ということは、かなり気を許した友人なのだろう。つまり、彼のプライベートをいろいろと知っている人だ。なにか言われなければいいけどと、不安で手が震えそうになってしまう。

「優。手伝いはいるか?」

 一矢さんの気遣いは、友人の前でも変わらないようだ。それはありがたい。
 ただ、それと同時に、来たばかりの客人の表情がほんのわずかに歪んだ気がしてズキリと胸が痛んだ。

 やっぱり、私は歓迎されない人間なのだ。自信なんてものは元から持ち合わせてなかったはずなのに、さらに落ち込んでしまう自分がいる。
 
「だ、大丈夫です」

 なんとか手の震えを抑え込み、気を取り直してコーヒーとケーキを並べていく。その間中、まとわりつくような視線を嫌でも感じてしまい、息が詰まりそうになってくる。

「良吾」

 その雰囲気に気づいたのか、一矢さんが声をかけた。

「ああ、いや。この子が、一矢の奥さんだよね。紹介してよ」

「優だ」

「ちょっと一矢、もう少しなんかあるだろ」

 あまりにも簡潔な紹介に、一矢さんの友人が苦笑した。逆に私が紹介する立場だったとしても、それ以上に話す内容は見つけられないかもしれない。夫婦とは名ばかりで、お互いをほとんど知らないのだから。

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