冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
「はじめまして、優ちゃん。一矢の友人の阿久津良吾です。俺のことはなんとでも、好きなように呼んでくれていいから」

〝ちゃん〟だなんて気安さを見せながらも、彼が警戒心を解いていないように見えるのは、私の気のせいだろうか。

「ゆ、優と申します。よろしくお願いします」

 なんとか挨拶を返すと、あらかじめ一矢さんに言われていた通りに彼の隣に座った。ふたりの間は、不自然にならない程度の間が空いている。

「それにしても、一矢が急に結婚したなんて言うから驚いたよ」

「まあ、当事者である俺たちも相当驚いたが」

 それでも私たちは、結婚せざるを得なかった。親同士の事情なんて、私は詳しくは聞かされていない。けれど、三橋製薬の社長である正信が、代理を立ててまで結びたかった縁だ。仕事上の旨味が大きかったのだろう。

「優ちゃんもさあ、まだ二十二歳なんでしょ? そんなに早く結婚してよかったの? まさに遊びたい盛りだろうに」

 笑みを浮かべる阿久津さんからは、彼が結婚に反対しているのだと、嫌というほど伝わってくる。私に対してよい印象を持っていないと、彼の選ぶ言葉が告げている。口調にも、隠し切れない棘が見え隠れしている。

 この人は、一矢さんを心から気にかけているのだろう。一矢さんも、いつもと違ってずいぶんリラックスしながら接している。ふたりの関係は、紙切れ一枚でつながった私たち夫婦とは違って、長い時間をかけて育んだたしかなもののようだ。

「わ、私は……遊びたいとかは別に……」

 愛人の子なんかが贅沢をしてはいけない。それは京子や陽から散々言われてきた。
 悔しいけれど、正信から家賃と生活費をもらわなければ、私たち母娘の生活は成り立たなかった。幼子を抱えて無職になった母は、正信からの援助を背に腹は代えられない思いで受け取っていたのだと思う。そんな生活では、無駄遣いなんて無縁だった。

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