冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
「ごめん、ごめん優ちゃん。ほら、あまりにも急な結婚だったから、一矢の友人としていろいろと大丈夫なのかって、心配しちゃってさ」

 その気持ちはもちろん本心だろう。でも、その裏にはやはり一矢さんが元からお付き合いしていた女性の存在があるのだと思う。この場でいくら私が不満などないと言い張っても、この人はどうしたって納得なんてしないのだ。

「いえ」

 余計なことは言わない方がいい。そんなの、京子や陽とのやりとりで学習済みだ。口を閉ざして相手の気が済むまで耐えていれば、悪意に晒される時間は短くて済むのだから。

 この結婚に対して間違っていると思うのは、私も同じなのだから。

 でも……。
 それじゃあ、泣きながら私に何度も『ごめんね』と繰り返した母の気持ちはどうなるのだろうと、仄暗い気持ちも芽生えてしまう。そんなの、ぶつける相手はこの人たちじゃないとわかっているのに。

 花嫁の入れ代わりという、とんでもない事実は明言していない。加えて、無職の私は一矢さんに養ってもらっている立場だ。そんな負い目しかない私は、なにひとつ反論なんて許されないってわかっている。

 どうしようもなくやりきれない気持ちは、完全にはなくなってくれないが、せいいっぱい取り繕うしかない。

「ケーキ、いただきまーす」

 気まずくなった空気を吹き飛ばすように、明るめの口調で阿久津さんが言う。
 一矢さんと私もやっと放置されていたケーキの存在を思い出して、それぞれフォークを手にした。
 正直、今食べても美味しさなんて感じそうにもないが、これ以上分この場の雰囲気を悪くするわけにもいかず、ふたりに合わせるようにして口へ運んだ。

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