冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
 正信は渋々少し離れたところにアパートを借りると、有里子をそこに住まわせた。もちろん仕事は辞めさせられたが、代わりに家賃と生活に困らない程度のお金が振り込まれるようになった。

 時折アパートを訪ねてきた正信は、物心がついたばかりの私に対して『目立った行動をするな』『俺に迷惑をかけるな』と言い続けてきた。
 その少しも愛情を感じない表情と口調が怖くて思わず涙を流すも、それすら疎まれてしまう。そんなことを繰り返しているうちに、俯いて耐えていればいいのだと学習した。

 母はいつだって私を庇ってくれたが、決定的に強く出られない立場だった。それに、後から母になにかをされるかもしれないと思うと、庇われることすら辛かった。

 母と正信は、私が幼稚園に行っている間に逢瀬を重ねていたようだが、それもいつしかなくなっていき、ついにはお金が振り込まれるだけの関係になっていた。認知した以上、振り込みを途切れさせるわけにはいかなかったのかもしれない。


 正信と入れ替わるように連絡をしてくるようになったのが、本妻である京子だった。夫の浮気がどこかでばれてしまったのだろう。
 有里子が正信に関係を迫られてしばらくした頃、京子は第一子の妊娠が判明した。そんなナイーブな時期に夫が浮気をしていたというのだから、怒りがますます大きくなるのも当然だ。
 おまけに追い打ちをかけるように、相手である有里子にも自身の子と数カ月の差で子どもが生まれていた。それを知った京子の荒れ様は、手がつけられないほどだったらしい。

 どうして電話番号が知られたのかはわからない。とにかく京子は、毎日のように有里子に電話をかけるようになった。

『本当に夫の子なのかしら』
『いくら認知したからって、遺産は渡さないわよ』
『三橋を継ぐのは、私が生んだ子よ』

 妻と愛人のふたりがそんな関係になっていると知っても、正信は京子を諫めもしなかった。何事も、面倒を嫌う性分だったのだろう。

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