冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
「ごちそうさま」

 食器の片づけを済ませると、一矢さんがコーヒーをいれてくれた。久しぶりの休みだという彼に、そんなことをさせるのは申し訳ない。私がやると主張したが、「まかせて」と断られてしまった。

「優、ちょっとそこに座ろうか」

 一矢さんはそのまま、ダイニングテーブルに着くように促してきた。昨夜私に告げに来た通り、これから話をするつもりなのだろう。

 ここへ嫁いできた初日は、私だけが座って一矢さんはそのまま見下げる格好で話していた。でも今日は、彼も向かいに座っている。それがこの数カ月一緒に過ごしてきた結果なのだとしたら、それほど悪くない反応なのかもしれない。

 どんな話をされるのか。それを受け止める覚悟なんて少しもできていないが、真剣な一矢さんの表情を見れば、避けられないのだと観念した。

 しばらくの沈黙の後、一矢さんが重々しく口を開いた。

「正直に話して欲しい」

 嘘はつきたくないと思う。それでも、正信に余計な話はしないようにきつく言い聞かされている手前軽々しく頷けず、曖昧な笑みを浮かべた。一矢さんはそれをどうとらえたのか、ほんのわずかに眉をひそめたが、すぐに元の穏やかな表情に戻した。

「優はこれまで、家族の食事をよく作っていたのか?」

 まさかさっきは軽く受け流された話をぶり返されるとは思っておらず、ぐっと押し黙った。ここで私がそれを認めたら、どんな不都合が生じるだろうか。言いつけを破るのも怖いが、これ以上彼に不誠実な態度をとるのも心苦しい。

 正信にはまだ、祖母の治療費という借りがあるのだ。あの人が母になにかをするとは思わないが、それでも人質のような立場だと思うと、背くのも怖い。

「えっと……」

「大丈夫だ、優。ここで話した内容は、不用意に漏らしはしない。特に、君に不利にならないように、最大限配慮する。俺とふたりだけの話だ」

「ふたり、だけ?」

 確認するように呟けば、一矢さんは「ああ」と首肯した。

 明らかに私がほっとしたと伝わったのだろう。一矢さんはさらに私をリラックスさせるように、笑みを向けてくる。

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