冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
「事実、ですから」

「たとえそうだとしても、それで君を傷つけてよいという理由にはならない。って、俺も違う意味で、君を不当に傷つけてしまったわけだが……」

 訪れた沈黙に耐えかねて、再び俯いた。

「〝三橋の問題児〟それが一部の人間の間で知られている、三橋の娘の呼び名だった。おそらく、本名よりその名の方が通じるほどなのだろう。だから俺も、君と勘違いしてしまったんだ」

 陽の生活がどんなものかなど、ほとんど知らない。ただ、母が言ったように海外まで好きな相手を追いかけていったのだとすると、少々破天荒なところがあったのかもしれないと想像ができる。

「三橋陽は、とある会員制バーの常連だった。常にブランド物で身を固め、男漁りばかりしていたそうだ。連れている相手は日によって変わる。貢ぐことがあれば、逆に貢がせることもある。いつしか周りは彼女を〝三橋の問題児〟と呼んで、噂話は密かに広がっていたようだ」

 破天荒どころではない話に驚いて、思わず顔を上げていた。連れている男性というのが、単に隣に座るぐらいの相手ではないと経験のない私でもわかる。でなければ〝問題児〟とまでは言われないだろう。きっと男女の付き合いがあったはずだ。

「俺の相手が三橋の娘だと知って、友人らがずいぶん心配していた。そのうちのひとりが良吾だ」

 初めて阿久津さんをマンションに招いた際の様子が思い出される。彼が私に向けてきた敵意ともいえる視線と、棘のある発言や行動の本当の理由がわかると、陽の噂を知っていたのならそうされるのも当然だと思う。

「良吾は真実を知って、改めて君に謝罪したいと話している」

 そんな必要はないと首を横に振るも、一矢さんは納得してくれそうにない。

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