冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
「最初にここへ来たとき、『継がせたい相手はもういる』と言われたので、その……てっきりわけあって結婚はできないものの、お付き合いしている人がいて、お子さんもいるのかと……」

「……」

 沈黙が痛い。こんなプライベートな話をすべきではなかったのだろうかと、一気に後悔の念が押し寄せてくる。

「はあ……」

 不意に吐き出された一矢さんのため息に、涙が滲んでくる。やはり、気安く持ち出していい話題ではなかったのだ。

「ゆ、優。すまない。いろいろと誤解があったようだ」

 私の潤んだ瞳気づいた一矢さんが、途端に慌てはじめた。

「泣かないでくれ。俺はこれまで嫌というほど君を傷つけてきた。もう二度と泣かせたくはないんだ」

 なんとか耐えた私を見届けると、一矢さんは真相を話してくれた。

「あれは、とにかく君を牽制するために発しただけだった。継がせたい相手というのも、姉のところに生まれた子どものことだ。双子の男の子で、今は離れたところに住んでいる。彼らのうちどちらかでも医療に興味を示してくれたら、緒方総合病院を委ねてもいいと思っている。それに優との結婚が決まるずいぶん前まで、付き合っていた女性はいない。もちろん、隠し子なんていう存在もだ。そもそも仕事に追われてそんな時間はなかった」

 一矢さんの長い独白に安堵して、一気に体の力が抜けていく。さっきとは違う種類の涙が、再び滲みだしてくる。

「よかった……私のせいで、その子が〝愛人の子〟と言われてしまうかと思ったら、ずっと苦しくて」

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