冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
「優……」

 途端にガバリと抱きしめられて、体が硬直した。

「君は……君は、いつだって自分より他人を優先するんだな」

「い、一矢さん?」

「長年、辛い思いをしてきたと聞いた。それなのに、こうして他人ばかりを思って……」

 一矢さんはそっと体を離すと、私の手を自身の両手で包み込んで視線を合わせた。

「優。君さえ許してくれるのなら、俺に君を幸せにする権利をくれないか。もちろん、散々傷つけてきた俺を許せないというのなら、潔く身を引く覚悟でいる」

 きっぱりと言い切る一矢さんに、再び鼓動が高鳴ってくる。
 きっと今ここで私が断ったとしても、彼は私の母はもちろん、三橋にも不利益になるようなことはしないと思う。そうしたら私は、再び母との生活に戻れるかもしれない。

 だけど、これまで一矢さんに対して抱いていた罪悪感から解放されたのだから、これ以上自分の気持ちを隠さなくてもいいのではないかと、ワガママな気持ちが沸き起こってくる。


『愛人の子でしょ?』
『出しゃばるんじゃない』


 これまで他人だけでなく、実父も含めてたくさんの人にそんな言葉を投げつけられてきた。そのたびに、我慢していればいいといつも縮こまっていた。

 そんな染みついた習慣は簡単に抜けず、一矢さんの言葉にも遠慮する理由を探してしまうのに、今ばかりは、いくら考えてもそれがひとつも見つからない。

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