メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~
灯里の目から静かに涙がこぼれた。
「偽名を使ったのは、私の旦那様であることが嫌だからだと思った。本当のことを言いたくなかったんだって」
「違う!違うんだ、本当に。ただ俺に意気地がなかっただけなんだ」
まさかこんなに拗れることになるとは夢にも思わなかったけど、と安西は苦笑いした。
「俺の手術の同意書にサインしてくれたとき、自分は家族じゃないのにって泣いていたと今西から聞いた。辛い思いをさせてごめん。灯里は俺の家族だよ。大事な俺の妻だ。できれば、これからも…」
灯里がいいと言ってくれたら、と安西は小さな声で付け足した。
灯里は胸の底が温かくなっていくのを感じた。心の中にずっと突き刺さっていた氷の棘が、解けていくような気がする。
安西はメールの向こうにいる旦那様で、半分空想の世界の人だった。灯里が安西に対して抱いていた気持ちは、テレビの中のアイドルに憧れる気持ちに似ていたと思う。
ヤマダに会ってからは、ヤマダが安西だったらよかったのに…と何度心の底で思ったことか。ヤマダに魅かれていく自分に怯えることは一度や二度じゃなかった。
安西とヤマダ、どちらも灯里にとっては大事な存在だったのだ。
あきらめなくていいのだろうか。
私は手を伸ばしてもいい?
灯里は涙の中に笑顔を浮かべながら、「私もこのままずっと一緒にいたい。私を陽大さんの本当の家族にしてくれますか?」と訊ねた。
安西は二人の間にあるテーブルを押しのけると、灯里をしっかりと抱きしめた。
「灯里、好きだよ。俺と結婚してほしい」
結婚後三年目に聞いたプロポーズに、灯里は何度も頷いた。