メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~

インターフォンが鳴る音がしたので、慌ててリビングに戻る。引っ越し業者が来たのだろうと思って応対すると、車の搬入だという。

玄関に行き、促されるまま外に出ると、カースペースに真っ赤なコンパクトカーがあった。

「安西陽大さんから、ご注文いただいております。奥様用ということで用意しましたが、お気に召さなければ変更するようにとのことです。試乗されますか?」

灯里は目を見開いた。確かに田舎暮らしに車は必要だが、そこまで気遣ってくれているとは思いもしなかった。

新車に乗るのは初めてだ。皮の匂いがする運転席にそっと座る。
その辺を走ってみて下さいと言われたので、近くの道を軽く走る。スイスイと走る車は乗り心地抜群だった。

ディーラーの人によると、この車種は女性に人気なのだという。

「それに有名な泥棒のアニメ映画に出てくる車なんですよ。イタリア製です」
「はー」

そのアニメ映画は灯里も知っている。古い映画だが、アニメおたくの友だちが絶賛するので、借りて観たのだ。

なるほど。そうと聞いたからには、車の名前は『不二子ちゃん』以外にありえない。

「不二子ちゃん、これからよろしくね」
ピカピカの車体をそっと撫でた。

家に家財道具に車まで。この就職(結婚)は恐ろしくいい条件だったのだと気づく。
ありがたやと、多分東京はこちらの方向だろうと思われる向きに深く頭を下げた。

引っ越し業者のトラックも来て、あっという間に段ボールが搬入された。荷物なんてほとんどない上に、収納がたっぷりある家なのですぐに片付く。

大事な両親の写真と、お正月に撮った村での集合写真をリビングのチェストの上に飾り、
「お父さん、お母さん。幸せな結婚ではないかもしれないけれど、とても思いやりのある旦那様に嫁げたみたい。安心してね」と報告をした。

写真の中の両親は、優しく微笑んでいた。


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