メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~
『拝啓旦那様
四月の風が心地よく感じられる今日この頃、いかがお過ごしですか?初めてお便りさせていただきます。吉永灯里、改め安西灯里と申します。
私は今日、無事島に着きました。旦那様が用意してくださった家と家財道具は、どれもみな素敵で大変感激しております。真っ赤な車は、憧れのイタリア製コンパクトカーで、早速「不二子」と命名しました。大事に乗らせていただきますね。
これから三か月間暮らす家は、港から坂道を上がったところにあり、リビングの窓からは海が見えます。山育ちの私が海の見える家に住むことになろうとは!引っ越し初日の今日は、海に沈む夕日を飽きることなく見続けました。明日の朝は朝陽に輝く海も堪能したいと思います。
あなた様のことをなんとお呼びすればいいのか迷いました。「安西さん」「社長さん」いろいろ考えましたが、「旦那様」と呼ばせていただきます。あなた様が私の夫であることは事実ですので、構わないですよね?
明日から早速町を探索し、任務を果たしてまいります。これからお便りは週に一度、金曜日にさせていただきますので、よろしくお願いいたします。末筆ながら、私は元気です。まずは、御礼まで。灯里』
*
出社して最初にメールをチェックするのが安西の日課だ。だから、今朝もその通り仕事を始めたわけだが、たくさんのメールの中に「安西灯里」という名前を見つけた。そこで真っ先にメールを開いたところ、こんな内容だったというわけである。
安西は繰り返し三回メールを読んだ。
灯里からは週に一度島の様子を知らせてもらうことになっている。女性の一人暮らしである以上、安否確認は重要なので、健康状態も知らせてほしいとはお願いした。
でも、普通の報告書が来ると思っていたので、「拝啓旦那様」という出だしでまず目を剥いた。その後に続く内容も、安西の予想をはるかに超えたものなので、固まったまま動けないでいる。
これから週に一度こんなメールが届くというのか。
安西は珍しくうろたえた。
会うことのない妻に、せめてもの誠意をと思って家財道具一式を自分で決めた。写真で見た姿からイメージするものを選んだつもりだったが、喜んでもらえたようだ。車はディーラーに勧められたものにしたが、有名なアニメ映画に出てくる車で女性に人気だという。
灯里もその話を聞いたのだろう。
「不二子」って…
安西は、ククッと笑った。
紙一枚の繋がりとはいえ、婚姻届の妻の欄に書かれた「吉永灯里」という字に少し胸が躍ったのは事実だ。丁寧に書かれた美しい文字は、灯里のイメージによく合っていたので。
「拝啓旦那様か…」
そんなメールがくるとは思いもしなかったが、嬉しい気持ちがするのはなぜだろう。
灯里のメールは専用のフォルダを作って保存することにした。気分よく次のメールを開く。いつもなら眉間にしわが寄るような内容のメールだが、今日は機嫌よく返事を書き始めた。
「何ニヤニヤしてるんだ。気持ち悪い…」
部屋に入ってきた今西に訝しげに言われ、笑っていたことに気づく。
「いや、別に」
キュッと表情を引き締め、メールのチェックを続けた。