メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~
窓を開けると海の香りがする。
始めは慣れない香りだったが、今ではすっかり慣れた。
島に移り住んでから二ヶ月。
灯里は楽しい日々を送っている。
最初の二週間はなかなか苦労が多かった。突然移住してきたよそ者を島民が警戒したからだ。
不二子ちゃんに乗り、島のあちこちに出向く灯里を、住民は訝しげに見てくる。
灯里が話しかけてもよそよそしくされるだけ。安西からは住民に溶け込むように言われているのにどうしたものかと思っていた時、救世主が現れた。
市場で買い物中、おばあさんに声をかけられたのだ。
「お姉ちゃん、最近よく見かけるけどどこから来んさった?」
「東京です。この島の滞在記を書くためしばらくの間お邪魔しています」
「ほう、あんた作家先生なんか?」
「いえ、作家ではないんですが…」
灯里が否定するのも聞かず、おばあさんは大声で周囲に呼び掛けた。
「聞いとったか、みんな。この子は作家先生で、この島のことを書いてくれるんじゃと」
おばあさんの声を合図にわらわらと人が集まり出す。
「作家先生とは思わんかった」
「賢そうな顔してると思とったんじゃ」
「わしのことも書いてくれるんじゃろか」
口々に話す人たちに取り囲まれる。どうやらおばあさんは、島代表で灯里の素性を確かめにきたようだった。
親しくなるきっかけを作ってくれて助かった。村で育てられてきた灯里は、お年寄りと仲良くなるのは得意だ。あっという間に打ち解けて、最初に話しかけてきたおばあさんとは特に親しくなった。
救世主であるヨネさんは、〝滞在記を書きに来た〟灯里の世話をあれこれと焼いてくれた。騙しているようで心苦しいが、その分は島の役に立つことで返したい。
今日は港でお祭りがあるので、お手伝いをすることになっている。
ヨネさんと一緒に焼きそばを作る予定だ。
昨日は金曜日で、安西にメールをする日だった。定期便のメールも最初は緊張していたが、返事があるわけでもなく、独り言をつぶやくようなものだ。とりとめのないことを好きなように書いて送れるようになっていた。