メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~
晴夏に言うと怒られそうだが、灯里は慰謝料を辞退しようと思っている。慰謝料とは〝離婚で被る精神的損害に対する損害賠償〟なのだそうだ。はてと考えてみたが、どう考えてもこの離婚で精神的苦痛なんて被らない。始めから決まってたことだし。
『退職金代わりだ』と今西からは最初に説明を受けたが、生活費として毎月渡されていたお金も、田舎暮らしでは使う機会も少なく、ほとんど手つかずなままだ。なにより、この三年間は本当に楽しかった。安西と結婚したからこそ味わえた楽しみだ。貴重な経験をさせてもらえて、灯里の方こそありがとうという気持ちだった。
灯里は三年間の滞在記を本当に書こうと思っている。実はもう書き始めていて、前からお世話になっている編集者に売り込み中なのだ。
今まで移住するたびに、「滞在記を書くために来ました」と言ってきた。だから、本当に記事になると信じて楽しみにしてくれている人たちがたくさんいる。この三年間で灯里は一生分の嘘をついた。せめて、滞在記だけは本当に書き上げたい。
「ライターの仕事はどこにいてもできるので、ゆっくり考えてみます」
「灯里ちゃんがどこに行こうと、私たちはずっと姉妹だから。今度からは私がお姉さんね」
晴夏の温かい言葉が嬉しい。実際、晴夏は灯里の二つ上で、今までも義妹ではなくお姉さんのようだった。
ほら、やっぱり慰謝料はいらないでしょ。
灯里が結婚で得たものはたくさんあるのだから。