メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~

安西は会社発足当時の話をしながら、さらに困惑していた。今西と安西の二人で始めた会社はなぜかヤマダも加えて、三人で始めたことになっている。

よくもまあ、思いつきの出まかせをベラベラと喋れるものだ。我ながら感心する。
何かに憑りつかれたんだろうか。そうとしか思えないほど勝手に口が動くのだ。

灯里はにこやかに話を聞いてくれている。時折相づちを打ってくれるので、とても話しやすい。わずかな間で、灯里の穏やかで優しい人柄がよくわかった。

『安西のことを支えてくださったんですね』
という言葉には参った。本当に灯里が妻なんだと感じるセリフにぐっときて照れた。

今西は呆れ果てたのか、能面のような顔でコーヒーを飲んでいる。

ひとしきり話した後、今日出向いてきた表向きの用件を告げた。

「ここの地域は、僕が担当します(うそばっかり)。どんな土地か来たことがなかったので、視察に来ました」

「そうなんですか!じゃあ近所を散策します?私もまだあまりわかっていないんですけど」

灯里は安西の嘘を真に受けて、腰を上げた。
「すぐ支度をしてきます。少し待っていてくださいね」と言い、小走りで奥の部屋に行く。

その後ろ姿を見ていると、「おまえに詐欺師の才能があるとは知らなかったよ」と今西が冷めた声で言った。

「俺も驚いてる。なあ、俺はどうしたらいいんだ?」
「知るかっ」

頼みの綱の今西に見放され、安西は項垂れた。

「しょうがない。俺はヤマダだ。もうそれでいく!」

やけくそだ。でもそれしかない。

「ばかばかしい。勝手にやってろ」
今西は言い捨てて、コーヒーを飲みほした。


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