メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~
今西が出ていくのと入れ替わりに、吉田亜里沙が入ってきた。
「どうしたの?ため息なんて吐いて」
親し気に微笑む亜里沙に、安西は表情を引き締めた。
「いや、なんでもない。何か用か?」
「もちろん仕事の話よ」
ソファーに移動して、亜里沙の用件を聞く。華やかな容姿だが、それでいて気さくで親しみやすい亜里沙は客先から非常に人気がある。元々イベント会社に勤務していた亜里沙をヘッドハンティングしたのは今西だ。期待通りの活躍で、会社にとってはなくてはならない人物になっている。
安西と別れた後も、わだかまりを残すことなく働いてくれているのは、会社にとってはありがたいことだ。安西なんかにこだわる必要がないんだろう。誰が見ても魅力的な亜里沙は、引く手あまたなはずだ。
仕事の話が終わった後、書類を整えながら亜里沙が安西を見た。
「ねえ、陽大。今度食事に行きましょうよ。また前みたいに」
安西は眉をひそめて亜里沙を見返す。別れてからは名前で呼ばれたことはなかったのに。
突然の呼びかけに安西は戸惑った。
「仕事中にいきなりなんだ?」
「だって、仕事中じゃないと話をする機会もないんだもの」
肩をすくめながら、亜里沙は言う。
「もう個人的に会うつもりはないと言ったはずだ。吉田も相手なんて掃いて捨てるほどいるだろ?」
「そんな人いないわよ。陽大と別れたことをちゃんと承諾した覚えもないし。ねえ、私に結婚願望がないから疎遠になったの?でも、私ももういい年だし、結婚してもいいかなと思い出したの。陽大もそろそろ…」
「バカなことを言うな。とにかく吉田とは仕事以外のつきあいをするつもりはない。そんな話をするのなら出て行ってくれ」
思いもよらぬことを言い出した亜里沙の言葉を遮るように、安西は早口で言った。
「陽大だって新しい相手はいないんでしょ?また今度ゆっくり話をしましょう。私たち結婚しても絶対うまくいくと思うの」
自信ありげににっこりと微笑んで、亜里沙は部屋を出て行った。
安西は唖然として亜里沙を見送る。
確かに『個人的にはもう会わない』と伝えた時、はっきりとした了承はなかったかもしれないが、まさか今になってそんなことを言われるとは夢にも思っていなかった。
甘いかもしれないが、割り切った大人のつきあいだと高を括っていたのだ。
安西は痛み出した頭をグリグリと揉んだ。