メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~

「今日はこれを持ってきました」

ヤマダは白い箱が入った紙袋を掲げてみせる。洋菓子店『カフェ・ド・イリス』のロゴが入った袋だ。

「わーい!」

この辺りでは手に入らないが、灯里はここのケーキが好きだった。
洋菓子なのにあんこを使っているのがこの店の特徴で、すごく馴染みやすい味がする。

しかも、厳太郎に『カフェ・ド・イリス』が安西のいとこが経営している店だと聞いて、なおのことファンになった。

「おやつの時間が楽しみです!」
「俺は灯里ちゃんの昼飯の方が楽しみだけど」

最近ヤマダの言動にドキッとさせられることが増えてきた。

灯里が安西の妻だということは、もちろんヤマダも知っている。だから、深い意味はないんだろうが、こんな意味ありげなことを言われると灯里は困ってしまうのだ。

安西に会いたいと思っていた。いや、過去形でなくて今でも会いたいと思っている。
安西がくれた二通のメールは今でも大切に保存していた。
でも、ふとした時に〝日曜日が待ち遠しい〟と思っていることにも気づいていた。

ヤマダが安西だったらよかったのに…

ふいにそんな考えが頭をよぎって、慌てて打消したこともある。

「今日は、寒いので粕汁を作りました。あとはいつものように野菜の煮物とかキノコのマリネとかですけど」
ヤマダの言葉をごまかすように言ってみた。

「それは楽しみだ」

ヤマダの方は見ない。優しい目で見ていることがわかっているからだ。

さあ、行きましょと踵を返した時に、またインターフォンが鳴った。

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